座談会メンバー
ケンドーコバヤシさん
お笑い芸人。
現在の愛車は、クジラクラウン(トヨタ・4代目クラウン)。
小林健太さん
自転車専門店『テンプラサイクル』の代表。
現在の愛車は、ケンメリ (日産・4代目スカイライン)ワゴン。
根津貴央さん
トレイルカルチャーウェブマガジン『TRAILS』のライター。
現在の愛車は、シトロエンBXブレーク。
山田陵太さん
スタイリスト。
現在の愛車は、メルセデス・ベンツのW124。
司会・進行 酒井悦郎さん
神奈川・藤沢のイタリア車・フランス車の中古車専門店『ガッティーナ』のオーナー。
司会・進行助手 横田修さん
東京・五反田の旧車・絶版車・隠れた名車専門店『スウィンギンモータース』代表。
新車ではなく、
旧車に見出した、それぞれの偏愛。
「のっけからそれぞれの愛車遍歴を聞きたいところですが、まずはじめに、『旧車のなにがいいんですか?』という、もはや結論と言ってもいい話から聞かせてください」
「月並みですけど、所有感、満足感が違いますよね」
「僕は外車専門のお店をやっていますけど、やりはじめた理由のひとつに、人と違うものに乗りたい!っていうのがすごくあったんですよね。ケンコバさんは、国産旧車のなかでもクジラクラウンを選びましたけど、かなり目立ちますよね。乗っていると、かっこいいねーとか言われたりするんじゃないですか?」
「奥多摩とか行った時に、さっき駐車場で休憩したのに、またすぐ駐車場にも停めて、一応みんなの反応をみる、みたいなのはやりますよね(笑)」
「意外ですね。業界の方なので目立たないようこっそりしてるのかと思いました。ただ本音はやはり『クジラえ~やろ?』と周りの反応を見たかったと(笑)」
「所有欲ももちろんですが私の場合は音ですね! 単車もそうですけど、音なんですよ。以前ホンダのS600に乗っていた時に、目黒通りの坂でエンジンをむちゃくちゃ回したことがあって。そしたら、隣に乗っていた奥さんがキャーーーッて叫んだんです。いい音が聴きたくて回しているのに、悲鳴を上げたんで『うるさい!』って口にしてしまって…。いまだに、奥さんから『あの時すごい怒鳴ったよね』って言われます(苦笑)」
やっぱり音なんです。いまのクルマにはない生き物っぽさというか
「音って、2気筒、3気筒、4気筒……と全部違うんですよね。それを追求していくと、また乗り換えることになるでしょうね。僕は2気筒の音が意外と好きで、3気筒はダメ、4気筒はちょっとつまらなくて、あとは6か8がいい。個人的に2-6-8の法則って呼んでいます」
「法則って、ただの好みじゃないですか!(笑)」
「(爆笑)」
「根津さん、山田さんは旧車の魅力についてはどうですか?」
「世界が広がりましたね。もともとクルマ好きってわけではないので、クルマ好きの友だちはいなかったのですが、旧車を買ってから旧車のコミュニティの人たちとつながることができました。 あとは、人生初のクルマを買う際にお店の人に『イタリア車を買うってことは、たんにクルマを買うってことじゃなくて、イタリアの文化を買うことなんだ。だから左ハンドル、マニュアルがいいんだ』って言われてグッときたんですよね」
旧車に乗るっていうのは、違う文化を味わっているという感覚があります
「これこれ! まさしくイタリアの文化ですよ。たしかに左ハンドルってバスを追い抜いたりするときに怖かったりはするんですが、でも概ね運転しやすいです。僕もいま、イタリア車に乗っていますが、やっぱりイタリア人になったつもりで運転してます(笑)。それには、左ハンドルマニュアル車が絶対条件なんですよね」
「自分は、所有欲はもちろんですが、同じクルマとはすれ違いたくないって思いがありますね。それと仕事柄、クルマに乗っている時間が長いので、できることなら気に入っている空間にいたい、というのもあります」
「見た目やデザインへの関心が強いのはさすがです!」
旧車オーナーの生き様が垣間見える、愛車遍歴。
つづいて、愛車遍歴に迫っていきたいと思います。恋愛遍歴と一緒で、その人の個性や生き様が出る部分だと僕は思っていて。よく雑誌とかだと、旧車に乗っている人はチャラい感じがあるじゃないですか。偏見ですけど (笑)。クルマ選びのセンスはいいんですけどね。
ケンコバさんは、スズキ・アルトを経て、念願だったトヨタの4代目クラウン、クジラクラウンを手に入れましたよね。トヨタの数あるクラウンのなかでも、暗黒時代と言われているものですね 」
「開発者の人が試乗してみて、『これ猫をひいちゃうね』って言ったというクルマです(笑)。実際、フロントがデカくて下が見えないので、地下駐車場から上がってきたら空しか見えない。最後は、イチかバチかでアクセルを踏むという」
クジラクラウン(トヨタ 4代目クラウン)
「わははは!それ分かります! クジラクラウンもそうですが、昔の日本車ってアメ車になりたかったのか、ボンネットは異様に長かったですよね(笑)。でも、なぜまたクジラクラウンに?」
「きっかけは、小5の頃に見ていたテレビ番組の『太陽にほえろ!』です。山さんこと露口茂さんが、いつもいいところでクジラクラウンで駆けつけるんです。これかっこいいなーって思ってたんです。
当時は、新日本プロレスを見ながらみていて、そこまでは響いてなかったんですけどね。ただその後、地元関西で、太陽にほえろ! の20年分を毎日流しますみたいな企画があって。それを見てたら、むちゃくちゃこのクルマいいなーと。そこから探しはじめましたね 」
「そこから10年以上探しつづけたと聞きましたが、途中、何かしら出会いがあれば浮気するものですよね」
「僕はバイクが大好きで、つねにバイクに乗っていたので、乗る欲は満たされてたんですよね」
「意外と浮気性じゃないんですね」
「まあ、そこセールスポイントにしてますけどね。女の子を口説く時の(笑)」
「さすがですね(笑)。小林さんは、10代からかなり乗り換えてますね。きっかけから教えてください」
「保育園の頃からの、親の英才教育ですね。運送屋さんを個人で営んでいて、親父の隣に乗るたびに、あのクルマはどこどこのなになにだっていうのを言われていて。それを覚えて好きになったんです。さらに当時、『トラック野郎』という映画を見て、菅原文太さんに憧れたりして。それでさらにクルマ好きになりました」
「それでトラックを買ってしまったと(笑)」
「いや、さすがに買ってないです(笑)。高校三年の時に免許を取って、最初に買ったのが、日産のマーチターボです。その後、就職して21歳か22歳の頃に日産のS13、シルビアを買い、さらに数年後に、ホンダのN360に乗り換えて。これが空冷のツインキャブで、エンジンはホンダZの5速が積んであって、すごく良かったんです。その後、ホンダのLN360っていうN360のワゴンに、N360のエンジンを載せかえて十数年乗っていました
「走り屋だった小林さんがいきなりサブロクとは意外ですね。シルビアに比べたら、相当遅いクルマですし(笑)」
「そこから、日産の510ブルーバードのワゴンと、ホンダのS600の2台持ちになって。510は子どもの頃からの憧れのクルマでした。すでに結婚して子どももいたんですけど、子どもがいると、乗るのは510ばっかりでしたね。
現在の愛車のケンメリは、以前から気にはなっていたのですが、いまは買い換えられないなと思っていたんです。でも2年前の夏にネットに出てたのを見た時に、僕のお店のスタッフが『一生に乗れる自転車とクルマって、数が決まっているんですよ。乗りたい時に乗ったほうがいいですよ』と言われて、決心しました。まあ、見事にスタッフにやられましたね (笑)」
「スタッフさんの素晴らしい営業トーク(笑)。事実、クルマって買える時に買っとかないと、後で買えなくなったりもしますからね。続いて、根津さんはどうでしょうか」
「最初に買ったのは、20代の終わりの頃に購入したアルファロメオのアルファスッドです。先輩に連れられて、たまたま酒井さんのお店にいったのがきっかけです。当時はクルマなんてただの交通手段としか思っていなかったんですが、それが覆されたというか。旧車の世界観だったり、プロダクトとしての素晴らしさに惹かれたんですよね」
「クルマをなかなか売ってくれない店だというウワサを聞きましたけど。そういう店をやっている人は、初めての人には売らない。まずは何人か抱いてこいと (笑)」
「そうですね(笑)。まあでも、しばらく通ってようやく買うことができて5年くらい乗りました。その後、フィアットの4駆のパンダを経て、今はシトロエンのBXブレークに乗っています」
「いずれも自分が売ったクルマなんですけど、全部ボロかったんですよ。ボロいんだけど、もともとのスタイルというか、そういうのを持っているクルマです」
「なんだかんだ、乗り出しまで時間かかってますしね」
「たしかに、乗り出しまでが重要ですよね」
「アルファスッドとパンダのデザイナーは、ジョルジェット・ジウジアーロという大御所デザイナー。BXはマルチェロ・ガンディーニとこれまた超有名デザイナー。クルマのデザインを見る目は持っている感じなんだけど、その心はみんなにモテたいとか、デザインの良いクルマに乗れば間違いないという美意識とかが、あるのかな」
「この座談会でいうのもなんですけど、女の子にはモテないですね。自分も彼女にちょうど言われてますもん。自分が運転できないから乗り換えてくれって (苦笑)」
「えーっ、そうなんですか !? 女子にモテないなんて謙遜ですよね。何乗ったって付いてきてくれるイメージですよ(笑)。山田さんはどうですか?」
「僕はこのメンツのなかだと、圧倒的にエントリーというか、きっとチャラい枠でここに呼ばれたんじゃないかと思っているんですけど (笑)。いわゆるクルマ好きっていうタイプでもないですし。初めてのクルマは、GMのビュイックのリーガルワゴンです。95年式なので、当時、旧車っていう感じはありませんでした 」
「クルマ好きじゃないのに、ビュイックを買ったと。なにか憧れがあったんですか?」
「見た目とかデザインですね」
「スタイリストですし、見え方的にも、なんか下手なものには乗れないっていうのはありますよね」
「お金はそんなにないですから、買える範囲でいいデザインのものを選びます。リーガルワゴンは5年くらい乗って限界がきたので、買い換える前に廃車にしました。その後、たジープのグランドワゴニアをタダで譲ってくれて」
「エッーーー、タダで!? 今だと中古で200〜300万しますからね」
「人ひいてるんちゃうか(笑)」
「事故物件みたいですね(笑)」
「でも、1カ月で故障で20万円も費やしたんですよ。燃費も悪いし、仕事で使えない。乗るたびにお金を払っている感じで。結局、名義変更が終わる前に先輩に返しました。
その後、別の知人がネイビーのリーガルワゴンを手放すと聞いて、それを買いました。リーガルワゴンが自分的に雰囲気とか含めてしっくりくるなと思ったんです。そこから5年くらい手を入れながら乗りつづけました。それから、ランドローバーのディスカバリー3にかえたら2年で動かなくなって、現在はベンツのW124に乗っています 」
「ここまで聞いている限り、他の人と引けをとらない変態ですね(笑)」
「チャラいとか言ってましたけど、しっかり別れてちゃんとケリをつけて次に行ってますよね」
オカルト系から寿命系まで、故障はつきもの。
「それぞれの嗜好があって、やっぱり旧車って面白いですね。一方で、旧車だからこその苦労もたくさんあると思うのですが、いかがですか?」
僕はもう13年くらい乗っているので小さな故障はちょこちょこあるんですけど、一度だけオカルト故障がありましたね。
僕のクルマは、ステッキ式のサイドブレーキなんですけど、それが何をやっても戻らなくなったタイミングがあって。ちょうど氷川神社のすぐ近くの赤坂の交差点でした。一体どうなったんやと慌てまして。で、後ろからはクラクションを鳴らされるわけじゃないですか。
そしたら、東京にこんな人いるんや!っていうくらいの、吉本新喜劇のヤクザみたいな人が『なんじゃこりゃー!』って来て、『あー、ごめんなさいごめんなさいー』って言ってたら、すんって戻ったんですよ。あれは、いまだになんやったんやろうなと」
オカルト否定派の僕が、完全にオカルトを感じた故障でした(笑)
「(爆笑)」
「やっぱりクルマもボコられるのが怖かったんでしょうね。セルフ修理ですね(笑)」
「旧車だからこそのあるあるだと思うのですが、エンジンの熱対策ですね。発売当時よりも地球の気温が高くなっているので、苦労しています。
以前、暑い日に高速の渋滞で、キャブレターの中のガソリンが高温になって調子が悪くなったことがあって。その時は、一度エンジンを止めたらしばらくかからなくなってしまって、困りました。地球の気候変動は旧車にも影響があるので、今後もそこには悩まされそうですね 」
「たしかに! これは旧車乗り、特にキャブ車の永遠の悩みかもしれません」
「どの旧車もそうですけど、しばらく乗らないとエンジンがかからなかったりします。それは単に古いからとか、ボロいからと言ってしまえばそうなんでしょうけど、どちらかというとちょいちょい機嫌が悪くなるというか、ツンデレというか。生き物みたいな感じで、それがまた愛着につながったりはしますよね。
あとは、大きな故障はしていないですけど、まあちょいちょい修理が必要な箇所が出てくるので、それなりにお金がかかるっていうのはありますよね 」
「故障の愛着って強がりみたい(笑)。でも昔は、故障自慢する人も多かったですからねぇ。まあ最近は減りましたけど」
「ディスカバリー3は約2年で廃車という短命でしたね。割とコンスタントに故障もあったし、燃費も悪いし、あまりに現実的じゃないなとは思っていました。 最後は、新国立競技場の前で、オルタネーターの故障で重ステになって止まって、おまわりさんにも手伝ってもらって押して、レッカーに載せて終了、という感じでした。ちょうどサスペンションにも警告灯がでていたし、エアコンも終わっていましたね」
購入時の走行距離は11万キロくらいと聞きましたが、10万キロくらいのタイミングで電装系の見直しとかはしたほうがいいですよね。日本の場合、新車のディーラーで5年ごとに新しいクルマに乗り換える文化というか慣習みたいなものがあって、それが今も残っている感じはします」
コツコツ修理して乗り続けたり、発展させていこうという考えがあまりないんですよね
「そういうのはヨーロッパ文化ですよね」
「そう! そもそもヨーロッパの人たちって経済的な理由もあって、しょっちゅうクルマを乗り換えるなんてことはなかったですから。だから直し直し乗り続けるんです」
尽きることのない旧車愛。次に乗るならどんなクルマ?
「では最後の質問です。次に乗りたいクルマを教えてください。でも、ケンコバさんはもうアガリですよね」
「いやありますよ。日産ローレルとかね。ブタケツの。関西出身なんでヤンキーの血が入っているんですよ」
「おー! それは失礼しました。ただ、そのあたりのクルマは高騰してますね。なぜか高くなるクルマってヤンキーが好きなものが多いんですよ(笑)」
「選ぶの難しいですねぇ。もう何も関係なく1台好きなの選べと言われたら、ケンメリのGTRですね。それはもう小学生の頃からの憧れなんで。今思うと、なぜ若い時に買えるチャンスがあったのに買わなかったんだって、悔やまれますね」
「いやいや、あきらめないでぜひ買ってくださいよ! その時は次の座談会で、どうやってわらしべ長者的に手に入れられたか教えてくださいね(笑)」
「いすゞのジェミニですね。子どもの頃に見た、街の遊撃手っていうキャッチコピーのCMがきっかけなんですけど。フランスの街をアクロバチックに駆け回っている感じに衝撃を受けたんですよね。なんだかんだで、街乗りが楽しいクルマが好きです」
「まったく現実的ではないので諦めてはいますけど、一番好きなのはランドローバーのクラシックレンジ (初代レンジローバー) ですね。自分のライフスタイルにはまったく向いていないですけど、一番好きなデザインです」
「それぞれ個性のあるいいクルマですね!さて、そろそろ時間になりました。旧車オーナーが、マジメにクルマが好きだっていうのが伝わってきた座談会でした。意外とみんなチャラくないなと」
「実はチャラくなかった(笑)」
「クルマでモテるっていう概念が、僕らの世代にはほぼないですしね」
「かっこいいです!やはり旧車は語り出すと話は尽きないですね。また座談会をやりましょう」
みなさん、今日はありがとうございました!
取材/文:酒井悦郎